退職代行という言葉が世間に広まって未だ間もないこともあり、「退職代行って安全なの?」「退職代行って違法じゃないの?」など、様々な不安や疑問の声がまだまだ多く聞かれることが多いかと思います。
その様な状況において、弁護士事務所、もしくは個人の弁護士によっても、実は一般企業がサービスを提供している退職代行サービスが「違法」か「違法ではない」という主張は三者三様であり結論は出ていません。
ちなみに、もう少し踏み込んでお話をすると、この退職代行サービスが「違法」か「違法ではない」かの論点の肝となるのは弁護士法の「非弁行為」の解釈が異なる為であり、日本の法律に則って退職代行の違法性に関しては結論が出ていないことが今の実情です。
ということで、まず退職代行サービスが違法か違法ではないのかの論点の肝となる弁護士法の「非弁行為」とはどういう事なのかを深堀しながら解説し、その上で弁護士法の「非弁行為」に抵触しない退職代行サービスとはどんな物なのか、その見るべきポイントを紹介していきたいと思います。
弁護士法の非弁行為とは
まず、そもそも退職代行とは退職希望者に代わり退職代行業者が退職の意向を会社に伝えるサービスです。詳細は下記ページでもご確認いただけます。
その退職代行が違法なのか否かを確認する上で、弁護士法第72条の非弁行為とはどのような物なのかを確認する必要があります。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
簡単に要約すると、「弁護士資格を持たない人が金銭を得る目的で、依頼人の代理として弁護士の様に揉め事の鑑定、代理、仲裁もしくは和解、その他の法律事務を取り扱う事はしてはいけません」という内容です。
これを退職代行に当てはめて考えると、弁護士資格を持たない退職代行サービス提供会社が退職代行を申し込んだ依頼主の代理として、弁護士の様に退職において会社との揉め事の鑑定、代理、仲裁もしくは和解、その他の法律事務を取り扱う事はしてはいけないという事になります。
仮に弁護士以外のものが非弁行為を行った場合、弁護士法77条により2年以下の懲役または300万円以下の罰金刑を適用されます。
では、その上で具体的に「退職代行が非弁行為に抵触し違法となる見解」「退職代行が非弁行為に抵触せず違法ではない見解」としてどの様な見解や意見があるかを紹介していきたいと思います。
退職代行が非弁行為に抵触し違法となる見解
退職金等の退職条件を交渉することはもちろん,退職の意思表示をすることも法律行為ですから,弁護士以外で,有料でそのような行為を行う業者は,弁護士法に違反する可能性があります。
弁護士以外の退職代行業者は、会社との交渉を行うことができません。
仮にそのような交渉ができるかのように語る業者は、すべて違法な業者である可能性が非常に高いです。
退職の意思表示をすることも法律行為と捉え、退職の代行自体を違法と考えるケースもあれば、会社との交渉の行為を非弁行為として違法とする考えもあるようです。
退職代行が非弁行為に抵触せず合法という見解
「退職を依頼する」の意味によります。退職に伴い、金銭支払い条件など何らかの代理交渉を依頼するのであれば非弁です。単に本人が作成した退職届を持参して届けるだけの役割であれば単なる使者として合法といいやすいかもしれません。
「交渉」を行わない、退職者の意思の伝達に留めた適正な範囲での退職代行サービスは非弁行為には当たらず、違法ではないと判断できるかと思います。
退職者の「退職」の意思の伝達を行い、退職届けを会社に代理で届けるだけの行為であれば、仮に金銭の目的があっても退職代行サービス自体は違法ではなく、合法であるという見解もあるようです。
退職代行は違法なのか?
この様に退職代行サービスは違法の行為なのか、法の解釈によりその見解は異なります。しかしながら、様々な意見を集約していくと以下の様な結論にたどり着くことが出来ます。
・退職者の「退職」の意思の伝達を行い退職届けを代理で届けるだけの行為であれば違法ではなく合法である見解が多数。
・弁護士資格を持たない退職代行業者が退職者の代理として企業側と交渉を行うことは非弁行為に該当が多数。
また、過去の判例から退職代行サービスが法律違反となったケースはない(2020年7月現在)ことも大きな1つのポイントとして捉えることが出来、これらを鑑みると全ての退職代行サービスが違反であるという事を言い切るのは難しいと考えられます。
退職代行が非弁行為に抵触する事項
では、具体的に退職代行が違法となり得る可能性が高い「非弁行為」とは退職代行業において具体的にどの様な物を指すのかをまとめてみました。
・公的書類となる「退職届」の代理作成
・会社との有給休暇の消化や有給の買取などの交渉
・会社との退職金支払いの交渉
・会社との未払い賃金、残業代の支払い交渉
・会社への損害賠償や慰謝料請求
この様な行為を、弁護士資格のない退職代行業者が行ってしまうと弁護士法の非弁行為に抵触し、仮に会社に裁判を起こされた場合には違法と判決が出る可能性が限りなく高いと考えられます。
違法にならない退職代行サービスのチェックポイント
では具体的に退職代行サービスを選ぶ上で違法とならない様なサービスを選ぶ為にはどの様なポイントをチェックすべきかどうかを解説していきたいと思います。
基本的に退職代行サービスにおいて「非弁行為」を行わないのは大前提ではありますが、実態が全てそうであるかは定かではありませんので、自己防衛の為にもしっかりと申し込むべき退職代行サービスは精査しましょう。
1:有給休暇の消化を会社に拒否された際の対応を確認
退職代行サービスには申込前に事前相談がありますので、「有給休暇の消化を拒否されたらどうするか」と質問して、退職代行サービスの会社のスタンスを測りましょう。仮に交渉して会社に有給休暇の消化を取りつけますといったサービスがあれば、完全に違法行為となるので、その様な退職代行サービスの利用は控えましょう。
2:弁護士事務所に退職代行を依頼する
弁護士資格を持っている弁護士が退職代行サービスを提供している場合には、会社への退職希望の代行は勿論のこと、その際に会社とトラブルになっても、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解を合法的に遂行することが出来ます。ただ、一般的な退職代行サービスよりは費用は割高なケースが一般的です。
3:弁護士監修か労働組合が運営している退職代行サービスを選ぶ
まず退職代行サービスには企業、労働組合、弁護士による大きく分けて3つのサービス形態があります。詳細は下記ページでご確認ください。
弁護士が退職代行サービスの業務を監修していることで、法律を遵守しながら退職代行を行っているケースが多いので比較的安心して依頼をすることが出来ます。
また、労働組合による退職代行サービスは会社との交渉が日本国憲法第28条及び労働組合法によって保障されているので、会社との交渉において非弁行為になることはありません。
団体交渉(だんたいこうしょう)とは、労働組合が、使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉すること。団交(だんこう)と呼ぶことも多い。日本における労働組合と会社間の交渉のうち、特に日本国憲法第28条及び労働組合法によって保障された手続きにのっとって行うものをいう。これらの手続きによらない交渉は一般に労使協議として区別される。
引用元:団体交渉 – Wikipedia
その為、退職代行が違法にならないという点では、労働組合が行っている退職代行サービスは、弁護士と同等に安心して依頼が出来ると考えられます。
なお、仮に自分の会社に労働組合が無い場合でも、中小企業労働者が一定地域ごとに個人加盟原則によって加盟できる労働組合に合同労組(ユニオン)という制度がある為、誰でも問題なく利用することが出来ます。
まとめ
退職代行において明確に「違法」「合法」という結論が出ていない中で、「会社が辞めたいのに辞められない」という人生を左右する極限の状況にあるのであれば、退職代行を利用することをお勧めします。
また、労働組合が提供する退職代行サービスであれば、限りなく非弁行為に抵触して違法となる可能性が低いので、そのようなサービスを優先的に検討することが良いでしょう。